情報量の多さでは設計図書がトップで、以下パンフレット、モデルルームの順になるはずが、ほとんどの購入希望者の興味の順はまったく逆のようだ。
なぜかモデルルームを見学しただけで大満足、買うと決めてしまう人が世の中には多い。
いくら精密なモデルルームをつくったとしてもそこは実物ではないわけだから、分からないことだらけのはずなのに、である。
たとえば生活する上でとても気になる設備の使い勝手など、モデルルームでは実感できるはずがない。
キッチンにしてもトイレにしてもバスルームにしても、見学はできるわけだから、たしかに見栄えは確認できる。
けれども、使い勝手の良し悪しはもちろんのこと、臭いや音がどのように発生してそれがどう処理されているかというような、使用上で気になるポイントについては知ることができない。
室内の明るさだって、すべての住戸で条件がちがうわけだから、想像しろというほうが酷な話だ。
昼間の日当たり具合による各住戸ごとの明るさなど、つかめるはずがない。
パンフレットの図面を見て、不幸なことに大きく開いた窓の目の前が駐車場であったとしても、それがどの程度日照に影響を及ぼすのかは分からないし、だいいち、部屋の外に要チェックのそういった施設があることさえ気づかない人の方が多いのだ。
、もちろん眺望や風通しといった、住み心地を語るうえでの必要条件について、想像するのはさらにむずかしい。
建物が竣工してから買った住戸を見学したところ、思っていたよりもずっと隣の建物が接近していて、結局、一日中ブラインドを下ろしていないことには隣からの視線が気になってしかたがない、というようなこともあるわけだ。
ちょっと考えただけでも、これだけ分からないことずくめなのだ。
それを分かっていながら業者は、買い主に物件を理解させようとする。
ひたいに血管を浮き立たせつつ必死に説明してもらっても、結果は聞くだけヤポというものである。
「ご理解いただけましたでしょうか」という営業担当者のお言葉には、「ご理解できるわけないでしょ」とお答えするしかない。
営業マンだって本音は、そりゃそうですよね、といいたいのだ。
逆にムリヤリ押しつけで理解したつもりになってもらうと、かえって後々説明とちがうと訴えられるような大問題にもなりかねない・だからこそ、どうしても説明が不足してしまう部分や誤解を生みやすい部分については、売買契約締結後クレームが出ないように、分譲業者は特に慎重に気を遣っているのである。
実際、見本品として見せたものと現実に販売したものとが異なれば、それは有無をいわさず欠陥商品であるとする判決も過去にはあるからだ。
青田売りの分譲マンションの場合、契約後、引渡し及び残金決済までに分譲業者に契約不履行があった場合、契約書には当然、損害賠償についての内容がうたわれている。
「売り主の違反により契約が解除された場合には、売り主は受領済みの手付金を全額、買い主に返還し、かつ手付金相当額を違約金として買い主に支払うものとする」分譲業者とてバカではない。
このように自らを縛ると同時に、いざというときには逃げがきくよう、前もって手をうっているのだ。
たとえばパンフレットにある外観パースには必ず断わり書きがあるのも、こういった配慮から刃買い主に説明しなければいくらでも変更可能?買い主に断りなく変更するなんてそれこそ違法行為ではないか。
ある人はこう尋ねるだろう。
たしかにこのような手前勝手な理屈で、業者が工事内容を工事中に変更できないように、宅建業法上ではいくつかの制約が設けられている。
「この外観図は図面を基に描き起こしたもので、実際とは多少異なります」たかが外観パースごときでそんなに慎重になる必要はないのでは、と思いきやそうでもない。
事実、外壁の色が、契約したときにパースで説明されたものと、現実にできあがったものとが明らかにちがうとして、買い主が契約解除を主張した例もある。
昭和四六年〔一九七一〕の建設省通達にも、重要事項説明内容の追加として、建物の内装と外装についても、塗装の状況等を説明することが義務づけられている。
となると、この点に関する説明にウソがあれば、業者は、不動産業者を取り締まる法律、宅地建物取引業法(以下、宅建業法)違反に問われるわけだ。
話し合いの結果、外壁の色はたしかにマンション購入を動機づける重要な要素であるが、それが共用部分であるかぎり簡単には変更できないので、分譲業者はしぶしぶ契約解除に応じたのである。
そうなると結局、業者にしてみれば説明義務のないことは聞かれないかぎり、極力あいまいにしておいた方が自分のリスクは低くなる。
そしてあいまいな部分が増えるということは、工事中、すでに契約済みの人になにも断りなく変更できる内容が増えることにつながるわけだ。
である。
ひとつは、宅建業法第三三条にある広告開始時期の制限。
さらに、同法第三五条一項五号にある工事完了時における形状・構造等の書面による説明。
そしてもうひとつが、同法第三六条にある契約締結時期の制限である。
つまりこれらの法律をわかりやすくつなげて説明すると、建築確認等の役所による図面審査が通っていれば広告を行うことができる。
そのかわりパンフレットを用意し設計図書等をきちんと閲覧できるようにすることで、工事が竣工したら建物がどういう形状でどういう構造のもとに建つのかを分譲業者は買い主に対して説明しなければならない。
けれども逆にこういう説明さえすれば、後は工事に着手していようといまいと、建築確認等が取れていれば自由に売買契約締結ができる、というのである。
これら法律上の制限の根底には、建築確認まで終了していれば建物について大きな変更はまずありえないだろう、という考え方がある。
たしかに建物に大きな変更があれば建築確認の申請し直しということになり、買い主に対する建物に関するそれまでの説明内容が変化してしまうわけだから、営業行為そのものも一からやり直しということになる。
そんなムダなことは分譲業者も望まないだろうから、売買契約は建築確認以後にという一つの区切りを設けておけば、契約済みの買い主に迷惑がかかるような工事途中の変更は生じないだろうというのが法律の趣旨なのだ。
ところがここに、机上の法律と現場の実態との間のズレがある。
たしかに分譲業者とて、申請し直しというような変更は望まないわけで、工事内容に関する大きな変更は発生させないように努力する。
けれどもそれはあくまで自分たちの余計な手間を生じさせたくないという、いわば分譲業者本位の理屈によるものだ。
つまり自分たちの手間にはまったく影響が出ないような小さな変更は、分譲業者にしてみれば発生させないように努力する理由さえ見つからない、ということになる。
つまり現実の工事現場においては、大きな変更はなくても、小さな変更はそれこそたくさんある、と思っていたほうがよい。
一般的に建築工事というものは、必ず追加工事項目が発生するといっても過言ではない。
設計図書があっても実際に施工しながら現場で打合せすることが多いことから、どうしても当初契約した工事金額をオーバーするような追加工事項目が少なからず発生してしまうのだ。
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